Khenpo Tsultrim Lodro(1962–)

ケンポ・ツルティム・ロドゥは、現在、ラルン五明仏学院副学院長であり、現代を代表するチベット仏教・ニンマ派の高僧です。四川省甘孜チベット族自治州のダンゴ県(炉霍县)出身で、現在、チベット族社会の中で、非常に影響力のある有識者の一人です。

ケンポは、ダンゴ県(炉霍县)のごく一般的な家庭に生まれました。成長するにつれて、「出家して仏法を学び修行することで、人々の役に立ちたい」との思いが強まり、1984年、22歳の時に地元ダンゴ県政府第三区委員会書記の職を辞して、ラルン五明仏学院にて出家し、20世紀チベット仏教界を代表する高僧であるジグメ・プンツォ法王(Khenpo Jigme Phuntsok, 1933¬–2004)の弟子となり、段階的に比丘戒、菩薩戒、密教戒を授かりました。

その修行場(ラルン五明仏学院)での生活が始まるとすぐに、生活環境の面では大変な困難に直面しますが、ケンポはそれを甘んじて受け入れ、昼夜を問わず全ての顕教と密教経典の勉強に努力を傾け、それら全てを矛盾なく理解することに成功します。そして数年間に及ぶ努力と数々の厳格な試験に合格した結果、法王より直接「ケンポ(仏教博士号)」のタイトルを授与されました。また24歳より、法王から伝授を受けたチベット仏教ニンマ派における密教の最上の教えに関する修行も開始しました。そして、根本上師である法王が、三度に及ぶ面談を通じ、修行の成果を認証されました。

その後、1991年から2013年までの間、ラルン五明仏学院の修学(教学)部門の院長を務め、22年間に渡り、学院全体の運営の責務をこなしながら、日々、仏法講義を担当し続けました。そして、仏法法脈を継承し、広く弘法できる優秀な人材も多く育成しました。

1994年、法王の命令により、仏教の教えを説くために、シンガポールへと派遣され、初めて国外で講演しました。そして2014年より、海外講演活動を再開し、香港、台湾、日本、シンガポール、マレーシア、インドネシア、カナダ、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドを訪れ、仏法講義や学術交流、企業での講演などを行なっています。

主な訪問先は、学術機関では、ハーバード大学、オックスフォード大学、スタンフォード大学、コロンビア大学、東京大学、京都大学などであり、学者との交流や講義を行なっています。企業ではグーグルやアップルといった先端企業を訪れて、特に生命と心の神秘の謎を解く鍵となる「科学と仏教」というテーマに関して、研究者や企業幹部らとの交流、講演会などを行っています。

また、ここ十数年間、チベットにおける環境保護、公衆衛生、菜食主義、そして生き物の命の保護と不殺生の重要性の促進にも力を注いでいます。そして、同地域に仏教の基本的な考え方に対する理解が深まることを目指し、たくさんの場所を訪れ、人々に仏法を説く活動も行なってきました。更に、チベット文化の発展が重要であるとの考えから、地域に複数の図書館や2つの学校も設立し、チベットの各地域を代表する語学学者や専門家を集めて、中国語−チベット語−英語(漢藏英)を網羅した、新単語辞典編纂のチームを組織し、そのプロジェクトを指揮し、中国語・チベット語(アムド、ラサ、カム方言の3方言)・英語の音声が収録された携帯端末向けアプリ『漢藏英常用句図解辞典』を監修しました。iPad、iPhone版アプリとして、アップルストアで正式にダウンロードが可能です。このアプリでは、4554の語句および3000以上の図が収録されており、語学学習にも適しています。URL:https://itunes.apple.com/cn/app/han-cang-ying-ci-dian/id1134909876?mt=8

また、チベット全域におけるHIVの感染拡大を防止するため、2012年より、エイズ予防啓蒙活動を行うボランティアのトレーニングプログラムを立ち上げました。さらに、同地域にエイズ予防と薬物乱用防止に関する知識を啓蒙する目的で、「公益エイズ予防協会」も設立しました。

ケンポは、西洋科学や哲学に関しての見識を広げる努力も続けており、現代の科学技術を使った仏教文化の普及に関して熱心に取り組んでいます。仏教に関する著作もチベット語と中国語の両方で多数出版されており、チベット語では、5巻からなる著作集を含む多くの著作や講演集があり、中国語では、11巻に及ぶ『慧灯之光』(中国語、チベット人民出版社、2010年)シリーズをはじめ、『私たちはなぜ幸福ではないのか?』(中国語、貴州人民出版社、2014年)、『転生の物語』(中国語、橡樹林、2007年)、『仏教:それは迷信か智慧か?』(中国語、ラルン文化事業出版社、2010年)、『チベット仏教を解読する秘密のコード』(中国語、ラルン文化事業出版社、2010年)、『神秘のベールを取り払うチベット仏教』(中国語、ラルン文化事業出版社、2009年)などがあります。